ジェーン・オースティンの小説『高慢と偏見』をベースにした本作。
原作は過去に何度も映像化されてきました。2005年に公開となった本作は、
映像も音楽もどれも登場人物の心情に寄り添って展開されていきます。
その丁寧さが魅力の根底をなす、本作のみどころに迫ります。
基本情報
監督:ジョー・ライト
製作:ティム・ビーヴァン、エリック・フェルナー、ポール・ウェブスター
製作総指揮:ライザ・チェイシン、デブラ・ヘイワード
脚本:デボラ・モガー
音楽:ダリオ・マリアネッリ
公開:2006年1月14日(日本)
キャスト
キーラ・ナイトレイ(エリザベス・ベネット)
マシュー・マクファディン(フィッツウィリアム・ダーシー)
ドナルド・サザーランド(ベネット氏・エリザベスの父)
ブレンダ・ブレッシン(ベネット夫人・エリザベスの母)
ロザムンド・パイク(ジェーン・ベネット)
ルパート・フレンド(ウィッカム)
サイモン・ウッズ(ビングリー)
トム・ホランダー(コリンズ)
ジェナ・マローン(リディア・ベネット)
キャリー・マリガン(キティ・ベネット)
タルラ・ライリー(メアリー・ベネット)
ペネロープ・ウィルトン(ガーディナー夫人)
ケリー・ライリー(キャロライン・ビンクリー)
ダーシーの恋と愛し方
いきなりですが、ダーシーはどのタイミングでエリザベスに恋したのでしょうか?
姉のジェーンが風邪をひいてビングリーの屋敷で休んでいるところに様子を見に来たエリザベス。
そこでエリザベスを見つめるダーシーの眼は、すでに恋をしている男のそれでした。
やはり最初に会ったときには惚れていたんですね。
初めて会ったのは舞踏会。
そのときのダーシーの無愛想っぷりは、作品のタイトルにもなっている通り、
エリザベスには“高慢”に映り、“プライド”の高い嫌な奴だという
“偏見”抱かせる直接的な要因となりました。
しかし、ダーシー本人が後に弁明しているように、
初対面で話をするのが苦手で戸惑ったゆえのあの態度だったのです。
内心惹かれているのに、それをうまく表現できず、相手にはむしろ
トゲトゲしい態度をとってしまう。ダーシーの不器用さが如実に描かれています。
本当はとても誠実な人なのに。
誠実さとは?
この作品の舞台は18世紀末から19世紀初頭のイギリス。
土地を所有し地方で暮らすジェントリと呼ばれる階級の娘たちが結婚するまでが主なストーリーです。
時代背景も常識も現代の私たちとは全くと言っていいほど異なりますが、
現代にも通じる部分もあります。
誠実さは目には映らない分、見分けるのが難しい。
これも本作に通底する、ひとつのテーマでしょう。
本当は誰が1番誠実なのか。
自分は誰に対して1番誠実なのか。
注意深く相手の言葉に耳を傾けないとなかなかわからないものですね。
エリザベスはそのことに気づきました。
ジェーンもまた、その誠実さや感情がビングリーに伝わらず苦い経験をしています。
そんなすれ違いそうになった2人を繋いだのもダーシーです。
ピングリーへの友情と、エリザベスへの愛情と。
それがダーシーの原動力。
結ばれるエリザベスとダーシー
終始冷たくそっけない態度を取るダーシー。
だけどエリザベスに対する想いは本物。
彼なりに、彼なりのやり方でどれほどに想っているかを伝えます。
エリザベスもやっぱり(最初から)気になっていて、好きだったんでしょうね。
彼の愛が本物だと感じ、自分もそれを受け入れていいんだと認められてからの
エリザベスの晴れやかな表情は人を好きになることの素敵さを雄弁すぎるほどに
物語っていました。
目と耳どちらも楽しませてくれる映画
物語の舞台はイギリスの田舎町ロンボーン。
随所に雄大な、手付かずの自然といった情景が映し出されます。
またそれと対比するように、綺麗に整備された豪華絢爛な屋敷も登場します。
当時の社会の階級による生活レベルの違いを端的に示すものでもありますね。
本作では、とても都合が良い点があります。
天候です。
雨に濡れたら雰囲気が出るな。というときには雨が降ります。
風が吹き荒ぶと際立つな。というときにはそのような描写が入ります。
なかなかに都合良く、絶妙なタイミングで、そして完璧と言える強さで風雨が
エリザベスやダーシーほか登場人物の感情とリンクしていくんです。
本当にすごくていねいに、緻密に計算しているんだろうなと思わせてくれます。
クライマックスのエリザベスとダーシーが丘の上で身体を寄せ合うシーン。
バックには朝日と、まさに洗い立ての大地。
息を呑み、酔いしれましょう!綺麗でしたね。
今度は耳、音楽に注目してみましょう。
陽気なもの。陰鬱なもの。やさしいもの。激しいもの。
いろいろあります。
冒頭からそうなのですが、どの場面でも決して主張しすぎることがない。
それでいて効果的。特にエリザベスの感情に寄り添うように。包み込むような音が
この映画での音楽の役割なのかなと感じます。
カメラワークも手伝って、場面の切り替えはリズミカル。
変わる変わる田舎やら豪邸やら楽しませてくれるカットが続き、
音楽がそれらを下支え。
もしかしたらストーリーに全く興味が持てなくても最初から最後まで楽しめるんじゃない?
そんなふうに思わせるくらいに、引き込む要素が多い作品です。
強烈なキャラクター
お母さん(Mrs.ベネット)のせいで結婚が破談にならなくて本当によかった!
そんな心配をさせるくらいこのお母さんは危なっかしい人でした。
娘を全員裕福な男性に嫁がせることが大事で(それはもちろん、女性に相続権がない当時の社会では普通のことでした)、
それ以外のことを考える余裕も器量もない、おまけに人の話は聞かないという一際強烈な人物でした。
そんなお母さんがスパイスとなり、気持ちが通じ合った者たちの恋愛は
それぞれとても透き通ったものに見えてくるから不思議です。
まとめ
何はともあれダーシーとエリザベスの間のわだかまり(=偏見)が解けて結ばれてよかったですね。
2人には恋愛における教訓を教えられたような気がします。
1番大切な人には1番誠実に。
それがわかりにくくてもきっと伝わるものだよと。
本作の設定は極めてシンプル。だから先が読めないハラハラ感はあまりありません。
それでも主人公の2人の表情やそれを演出する情景と音楽。
恋愛映画ファンでなくても、それだけで楽しめる映画だと思います。